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広島高等裁判所 昭和48年(く)9号 決定 1973年5月25日

少年 K・T(昭三二・五・一五生)

主文

原決定を取り消す。

本件を広島家庭裁判所福山支部に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、記録編綴の少年の保護者ら提出の抗告申立書の記載のとおりであつて、その要旨は、少年は今春中学を卒業したばかりの年少者であつて、その非行性もさほど深化しているとは考えられないうえ、少年の保護者、実兄らが少年の自立更生に必要な生活環境の調整に努力し、現在では少年を含む家族挙げて同じ職場で働く目途もたち、右保護者らの監督によつて少年の保護を十分全うしうる事情にあり、また、本件共犯者らとの処遇の均衡の点などからして、少年を中等少年院に送致した原決定には、処分の著しい不当がある、というのである。

そこで、本件少年保護事件記録ならびに少年調査記録にもとづき検討するに、少年は、中学二年在学中の昭和四六年一〇月頃から昭和四七年一月頃までの間前後七回に亘り、当時の少年の自宅附近の店屋で現金合計一万二〇〇〇円余を盗む非行を犯し、同年六月三〇日原裁判所で保護観察に付せられたが、少年自身学業に身が入らず、遊興癖も徐々に昂じたうえ、父親が遠隔地の病院に入院し母親の付添看護を要する事態の発生で保護者の監督指導が不十分となつたことも重なつて、再び原決定2、3の窃盗非行を繰り返すに至つたものであつて、このほか、右保護観察処分をうける以前、中学同級の女子学生を共犯少年の自宅に誘つて集団で輪姦するという同決定1の強姦非行を犯している事実に徴すると、少年の要保護性には軽視できないものがあり、従前とられた保護観察による補導方法が少年の自立更生に十分な効果を挙げ得なかつたことと相俟ち、原決定が少年を中等少年院に送致したことも、あながち理解しえないわけではない。

しかしながら、当審における事実取調の結果を参酌して検討するに、本件非行のうち原決定1の強姦非行は、共犯少年U・Rが主導的役割を演じて敢行された集団非行であつて、同決定も指摘しているごとく、少年の所為は追従的であつて、性非行としての根はさほど深いものとは認められず、そのうえ右非行は前件保護観察の処分をうける前の所為であつて、少年の処遇決定に重要な影響をおよぼすものとは認め難く、また、原決定が重要視した同決定2、3の窃盗非行にあつても、その非行後本件審判をうけるまでの約半年の間、少年は中学を転校しながらも無事義務教育の課程を終了し、その間なんらの非行もなく、その生活態度等にもとりたてて問題視すべき程のものは見受けられないことなどからみて、思慮分別の十分そなわつていない中学生時代における過渡的な非行とみうる余地もないではなく、加えて、少年が右のように中学を転校したことの背景には、地元中学側の強い要求に押されて転校を余儀なくされた事情があつて、右の転校自体少年にとつて懲罰制裁的な配慮が含まれていたことが看取されるのであつて、右にみたような諸般の情状に、漸く中学の課程を終了して今まさに社会人としての第一歩を踏み出さんとする少年の心情、境遇等をあわせ勘案するとき、少年の処遇決定にあたつては、能う限り在宅保護による手段の可能性を探り、活用しうる社会資源を開発するなどして、つとめて自立更生の途を課ずることが望ましいものというべきである。

しかるところ、当審における参考人K・S子、同K・Hの尋問の結果によれば、少年の保護者らは、少年の中学卒業を機会に、その受入態勢を整備する意図のもとに、生活環境の良好な豊田市郊外に家族挙げて職を求めて転住する計画を立て、既に現在にあつては、少年を除く家族全員同市に移つて同一職場に就職し、少年も同じ職場に就職できるよう手配を整え、保護者ならびに実兄が総力をあげて少年の指導監督にあたる態勢を講じていることが認められ、そのうえ万一右保護者らによる指導監督に万全を期し難いものがあるとすればそれは保護司による補導援護その他社会資源の活用によりこれを補いうるものというべく、少年にとつて、未だ在宅保護の手段による矯正の可能性は残されているものとみるのが相当である。

右にみた各般の事情を彼此勘案すると、少年を中等少年院に送致した原決定は、その処分が著しく不当たるを免れない。本件抗告は理由がある。

よつて、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により、原決定を取り消したうえ、本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 牛尾守三 裁判官 村上保之助 丸山明)

参考二

抗告申立書(昭四八・四・一八付法定代理人親権者父・母申立)

事由

一、本人K・Tの中学校卒業を機会に家族全員が本人の更生の為に名古屋○○○自動車工場へ就職する準備を完了したところであります。本人もまた当工場へ就職させ長兄が両親と協力して監督し名古屋における家族の新しい再出発を期待しております。

一、本人K・Tは未だ年少で両親や兄・姉、親族等の監督の下で就職させることが最も適当と考えられます。

一、尚本件に関聯した当時の高校生は唯単なる保護観察に処せられているのみであり当時中学生の本人に対しては苛酷に過ぎはしないかと考えられます。

以上ここに抗告いたします。

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